風営法対象外プレイヤー

COJと音ゲーと水曜どうでしょう @fies6928

過去の失敗記③「流涙の大盛りつけ麺うどん」

〜大盛りつけ麺うどん爆発事件〜
今回もファミレスでバイトしていた頃の出来事です。
数年前のお盆でした。店長からのスクランブルを受け数時間早めにシフト入りした店内はほぼ満席であり、ウェイターも調理も手が回っていない状態でした。
勿論お盆は稼ぎ時なのでいつもより人数は厚めに用意されてはいましたが、キャパを越える来客により中はてんやわんやでした。
ファミレスではおおよそ昼15時から18時までは「アイドルタイム」と呼ばれピーク時に比べ客足が減り落ち着いてくる時間帯と言われています。それに合わせて従業員も少なくなります。
客層も話やスイーツ目当てのマダム達がメインなのでそこまで手がかかる訳でもないので、その時間帯を使い夜のピーク時に向けて食材の仕込みや解凍、諸々のスタンバイを行っていく訳です。
ところがその時間に予期せぬ団体が来たり、こうした休日等でピークから人が引かない状態となるとそのまま何も出来ずにずるずると忙しい時間帯に突入となり非常に危険なのです。

そんな中ウェイターとして入る僕、焦り顔の店長は開口一番「ごめんこの大盛りつけ麺うどん○○卓に大至急持って行って!」と指示されます。伝票を見て料理提供時間を大幅に遅れている事がわかりました。すぐにお盆にうどん、小鉢、と用意し、少し離れた場所に置いてあったつゆを取り、急いで持って行きました。
そのテーブルは家族連れの4人、父母姉と三人の料理は揃っている中で一人だけ揃っていない、小学校低学年と見られる息子の料理がどうやらこの大盛りつけ麺うどんでした。
大変お待たせして申し訳ございませんでしたと頭を下げるも御両親は和かに「いえ、いいんですよ。お忙しそうで大変ですね」と逆に慮っていただき、ふくれっ面だった息子も「やっときたー!僕わさび食べれるからね!」と機嫌を戻した様子。
(良い人達で良かった・・・)クレームを覚悟していた僕がほっとして他の席の片付けに向かった、その時でした。
「ぶふぉおっ!!」
先程の息子さんが盛大にうどんを噴き出していました。
タオルを用意し急いで掃除する僕。困惑する母親に少し怒り気味の父親。
「すみません汚してしまって・・・ほら○○、強がってわさび入れるからそうなるんだ」
父親がそう謝るも、黙ったままの息子。その視線からは「許さねぇ・・・」という憎しみを感じました。
『違う!これまずい!』
つゆの容器を持ち上げ、味がおかしいと主張する息子。父親は相手にしません。
「何て事言うんだ!謝りなさい!」
『だってまずいもんはまずいんだもん!食べてみてよ!』
くわっ、と父親の目が見開いた瞬間、息子の頭にげんこつという名の裁きが下りました。鈍い判決の音、訪れる沈黙。
うるうると今にも泣き出しそうになりながらも、しかしまだこちらに向け力を込めた憎しみの波動を送り続ける息子。
(何かおかしい・・・)
直感でそう感じた僕は、「・・・つゆ、新しいのをお持ちしますね!」と息子の手からつゆのお椀を取り上げてフロントに戻りました。
するとそこには料理を置くカウンターの上を探し、?と首を傾げている店長が。
「どうしました店長?」
『いや、さっき○○ちゃんが俺にお冷を注いでくれたんだけど見当たらないんだよね。ここに置いたって言ってたのにさ』
そう言ってカウンターを指差す店長。
「そこにあるお椀は?」
『これ?これは』
くんくん、と匂いを嗅いで頷く店長。

『うどんのつゆだよ』 

ひゅっ、と息を飲みました。
うちの店だけかもしれませんが、従業員が水を飲む時はグラスを用意したりするのが面倒なので味噌汁のお椀等で代用していたのでした。それがつゆを入れるお椀と同じものでした。
そしてそのお椀は中が黒い為ぱっと見でその中身が透明か黒いかはわからない・・・。

つまり先程うどんと共にお盆に乗せて持って行ったのは「店長のお冷」だったのです。
そして彼はそれと知らず、ただの水にわさびを溶かし、それにうどんをつけて食べてしまったと・・・そしてあまりの衝撃、味覚の裏切りに耐え切れず噴き出してしまったのだ、と。


・・・
点と線が繋がってしばらく唖然としていましたが、すぐに我に返りその本来のうどんのつゆを持ち急いで先程のテーブルへ向かいました。
未だテーブルは皆が黙ったままで楽しい一家のランチはどこへやら、重苦しい空気が漂っておりました。
(もう正直に言うしかないか・・・)
つゆ(本物)を置き、僕が頭を下げるのと同時に息子が父親に切り出しました。
『ほら!!舐めてみてよ!!絶対まずいから!!』
あ、と制止する間もなくつゆ(本物)を息子から奪い取り舐める父親。
「・・・うん、普通のつゆだ」
そう?とつゆ(本物)は母親、そして姉へとワールドツアーをし、つゆ(本物)が彼の元に返って来る頃には皆険しい表情で息子を見つめました。
「いや、あの実はですね先程の」
「重ね重ね息子が失礼致しました。どうぞお仕事に戻られてください」
「あ、あの・・・」
強気の表情から一転、絶望に顔を歪める息子。
四面楚歌の中「そんな馬鹿な・・・」と僕に縋るような視線を送る息子。


「ごゆっくり、どうぞ・・・」


そんな彼の視線を全身に浴びながら一礼し、僕は再び作業に戻っていきました。


ごめんなさい。
言えなかった・・・。

「あれ実は水でしたーてへぺろりーん?」なんて、僕には言えなかったんだ。

それから一時期は事ある毎に匂いを嗅ぐ為にみんなから不審者扱いされた、そんな事件でした。


皆さんもつゆにわさびを溶かす場合は万が一に備え「もしかして水かも・・・」と疑ってかかってください。



では